空のっぽと雲ひげ

サンドアートとつれづれ日記

カンテレ奏者あらひろこさんのこと

今年の3月「祈りの北方圏」で素晴らしいカンテレ演奏をしてくださったあらひろこさんが、5月5日に天国へ旅立たれた。未だに信じられない気持ちに戻ることがあって、やりきれなさが右往左往する。


仕事上必要に迫られ、節操もなくいろいろな楽器を触って来たけれど、頼まれてもいないのに好きで演奏しているのは5弦カンテレだけ。これは、16年前のライブで初めてひろこさんとご一緒した機会に、その慎ましやかな音色と形に一目惚れしてひろこさんから購入したものだ。
カンテレ奏者として、またフィンランドと日本の架け橋として、ご活躍されていたひろこさんは本当に貴重な存在だった。

にもかかわらず、私はひろこさんから直接カンテレを教わったことがない。
何度もRAUMAのリハでうちに来ていただいていたのに、コンサートカンテレに一度も触らせていただいたこともない。お願いすればすぐに、「どうぞ~♪」とあの優しいにこやかなお顔で言ってくださったはずなのに…。
巨大な後悔の波が押し寄せる。

 

ひろこさんとの印象的な会話がある。
6年前、やはりRAUMAのリハでうちにいらしていた時のこと。スケジュール調整の件もあって、癌が見つかったこと、近く手術をするのだということを、ひろこさんが嵯峨くんと私に説明した。
「でも、良性だったから、あまり心配しなくても大丈夫なの。」と、ひろこさん。
「そうなんですね~、よかった!」と私。
「うん、でもね、私、今すぐ死んでも何にも思い残すことがないから。」
「え~、そうなんですか?」
「うん、本当に、全然、すっぱり(笑)。」
なんて潔い人だろうと、羨ましくさえ思ったものだ。でも、お葬式後耳に入った話では、癌が見つかった時点でステージはかなり高かったとのこと。

 

先日、ひろこさんが何度も出演されていたという「銭函フェス」のステージに、RAUMAの相方である嵯峨治彦コーナーのゲストとして私も参加させていただき、ひろこさんが5弦カンテレのために作曲した「Omokage」という曲を弾いた。これは、コロナ禍で会えなくなったレッスンの生徒さんたちに向けてひろこさんが作った動画から耳コピしたものだ。

弾きながら、メロディの音の選び方や構成がひろこさんらしい、曲の中にひろこさんがいる、と思った。
…そうか、その人の面影を抱いて生きていく人たちがいる限り、その人は別の方法で生き続けるのかもしれない。


「おもかげ」”Omokage”
https://www.youtube.com/watch?v=hmWsqlfUFVQ