クリック?クラック!
北海道語り手ネットワークニュース「クリック?クラック!」6号に「語りと私」というテーマで寄稿しました。
こういったご依頼をいただくと、あらためて自分の考えの整理をするよい機会になりますね。
*****************
「新しい語りの世界へ」
今年1月、ほぼ10年ぶりに、「語りと音楽のデュオ 野花南(のかなん)」として長期本州ツアーを行いました。ツアーの間中、各地で嬉しい言葉をかけていただく度、10年前語りに取り組み始めた頃の苦い記憶がちらちらと頭をよぎりました。暗誦する際、緊張のあまり観客を睨んでしまっていたのでしょう、目線を振ると誰もがみな俯いてしまうのです。アンケートにも、辛辣な感想が少なからずありました。そんなこんなで、ご依頼を受けて舞台に立つものの、「本当に私の語りは必要なのだろうか」と迷い始めた矢先のことでした。長野の古民家で催されたコンサートの終演後、車椅子に載った年配のご婦人がにこにこ笑いながら近づいてきて声をかけてくださったのです。「人の心を温かくする、いいお仕事ですね」それは、私にとって起死回生の励ましでした。
私の場合、基本的に、音楽コンサートの中のひとつの演目として語ることが多いため、この10年ずっと自分のスタンスについてどうあるべきかを悩み続けていました。でも、いろいろな方々とのコラボレーションや交流を通じ、自分以外の感性と交わることでどんどん膨らんでいく表現の面白さを実感した時、ようやく自分のやりたいことが見えて来たのです。
現在私は、「物語と音楽」というコンセプトのもと、一人でモンゴルの民族楽器 馬頭琴やフィンランドの民族楽器 5弦カンテレなどを演奏しながら物語を読むというライブ活動にも挑戦しています。実際、これらの楽器は、現地では古くから語りと共に奏でられていたものです。
物語を表現するという作業を続けていく上で、自分なりの工夫を常に意識することが作品の幅を広げ、物語や表現に対する尽きない興味を掻きたててくれるような気がします。この北海道語り手ネットワークの中でも、そういった新しいスタイルに挑戦することが活発になり、互いに前向きなアドバイスをやりとりすることができれば、本当に素敵だと思います。